「IT導入補助金」は、令和7年度補正予算から「デジタル化・AI導入補助金」に名前が変わりました。名前は変わりましたが、ITツールの導入費用の一部を国が補助するという基本的な仕組みは引き継がれています。この記事では、これから申請を考える中小企業・小規模事業者の経営者の方に向けて、制度の全体像を公式サイトと公募要領の記載に沿って整理します。

この記事で分かること

  • デジタル化・AI導入補助金がどんな制度で、旧IT導入補助金と何が同じで何が変わったのか
  • 申請できる事業者の範囲(個人事業主を含むか)
  • 5つの申請枠と、それぞれの補助率・補助額
  • 対象になるITツールと、AIの扱い
  • 申請の流れ・スケジュールと、採択に向けて押さえたい注意点
  • 過去の採択率(申請数と交付決定数の実績)

補助率・金額・締切は公募回によって変わることがあります。申請の前には、必ず公式サイトと最新の公募要領で確認してください。

デジタル化・AI導入補助金とは(旧IT導入補助金からの変更点)

デジタル化・AI導入補助金は、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDXに向けたITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金です(公式サイト「制度概要」)。働き方改革、賃上げ、インボイス制度など、中小企業が続けて直面する制度変更への対応も目的に挙げられています(公募要領 1-1)。

旧IT導入補助金からの主な変更点は名称です。中小企業庁によると、制度の基本的な仕組みや補助対象は大きく変わりません。中小企業にもAIを活用した業務改善の可能性を広く知ってもらう狙いがあるとされています。公募要領でも、補助の対象となるソフトウェアは「AIを含む」と明記されています(公募要領 1-2)。

仕組みの特徴は次の3点です(公式サイト「制度概要」)。

  • 対象となるITツールは、事務局の審査を受けて補助金サイトに登録されたものに限られる
  • 相談対応などのサポート費用や、クラウドサービスの利用料も補助の対象に含まれる
  • 申請者は、事務局に登録された「IT導入支援事業者」とパートナーシップを組んで申請する(複数者連携デジタル化・AI導入枠を除く)

対象となる事業者

対象は、資本金か従業員数のどちらか一方が業種ごとの基準以下の中小企業と、小規模事業者です。公募要領の定義では会社だけでなく個人事業主も対象に含まれています(公募要領 2-1-1)。主な基準は次のとおりです(公式サイト「申請の対象となる方」)。

業種資本金従業員
製造業・建設業・運輸業3億円以下300人以下
卸売業1億円以下100人以下
サービス業(ソフトウェア業・情報処理サービス業・旅館業を除く)5,000万円以下100人以下
小売業5,000万円以下50人以下

このほか、医療法人・社会福祉法人(従業員300人以下)や、NPO法人・一般社団法人なども、条件を満たせば対象になります。ご自身が当てはまるかは、公式サイトの「申請対象者チェッカー」で目安を確認できます。

あわせて、次のような申請要件があります(公募要領 2-1-1)。

  • 事業場内の最低賃金が、地域別最低賃金以上であること
  • 「GビズIDプライム」を取得していること
  • 情報処理推進機構(IPA)の「SECURITY ACTION」で「★一つ星」か「★★二つ星」を宣言していること
  • 労働生産性を1年後に3%以上、事業計画期間(3年)の年平均で3%以上伸ばす計画を立てて実行すること

補助金額が150万円以上の申請では、さらに賃上げの要件がかかります。1人当たり給与支給総額の年平均成長率3%以上、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上にする計画、そしてその計画を従業員に表明することです。過去にIT導入補助金2022〜2025の交付決定を受けた事業者は、要件が一段厳しくなります(公募要領 2-1-1、別紙1)。

申請枠と補助率・補助額

申請枠は5つあります(公式サイト「制度概要」)。

通常枠

事業のデジタル化に向けたソフトウェアやシステムの導入を支援する、基本となる枠です(公式サイト「通常枠」)。

  • 補助率:1/2以内(地域別最低賃金近くで雇用している従業員が一定の割合以上いる場合は2/3以内)
  • 補助額:業務プロセスを1つ以上持つツールで5万円以上150万円未満、4つ以上で150万円以上450万円以下

2/3以内になる条件の対象期間は、公式サイトの通常枠のページと、第7回公募以降の公募要領とで書き方が異なります。申請する回の公募要領で確認してください(公募要領 2-3)。

インボイス枠(インボイス対応類型)

インボイス制度に対応した会計・受発注・決済ソフトや、PC・ハードウェアの導入を支援します(公式サイト「インボイス枠(インボイス対応類型)」)。

  • ソフトウェア:補助額50万円以下の部分は中小企業3/4以内・小規模事業者4/5以内、50万円超〜350万円以下の部分は2/3以内
  • PC・タブレット等は10万円以下、レジ・券売機等は20万円以下(補助率1/2以内)
  • ハードウェアだけの申請はできません

インボイス枠(電子取引類型)

取引の発注側の事業者が、インボイス制度に対応した受発注システムを導入し、受注側の中小企業・小規模事業者に無償でアカウントを使わせる場合を支援します。大企業を含む発注側も対象で、補助率は中小企業・小規模事業者等が2/3以内、その他の事業者が1/2以内、補助額は下限なし〜350万円以下です(公式サイト「インボイス枠(電子取引類型)」)。

セキュリティ対策推進枠

IPAの「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載され、事務局に登録されたサービスの利用料(最大2年分)を補助します。補助率は小規模事業者2/3以内・中小企業1/2以内、補助額は5万円〜150万円です(公式サイト「セキュリティ対策推進枠」)。

複数者連携デジタル化・AI導入枠

商店街やサプライチェーンなど、複数の事業者が連携してITツールを導入する取り組みを支援する枠です。補助率が通常枠より引き上げられており、申請の流れも他の枠と異なります(公式サイト「複数者連携デジタル化・AI導入枠」)。

対象になるITツール・AI活用の例

通常枠では、次の業務プロセスのうち1種類以上を持つソフトウェアを申請します(公式サイト「通常枠」、公募要領 2-2)。

  • 顧客対応・販売支援
  • 決済・債権債務・資金回収管理
  • 供給・在庫・物流
  • 会計・財務・経営
  • 総務・人事・給与・教育訓練・法務・情シス・統合業務
  • その他の業種固有のプロセス

分析・自動化ツールのような「汎用プロセス」だけのツールは、単体では申請できません。上の業務プロセスと組み合わせると申請できます(公募要領 2-2)。AIを使った機能を持つツールも、事務局に登録されたITツールであれば対象になり得ます。ただし、市販のAIサービスを自由に選べるわけではありません。導入したいツールが登録されているかは、公式サイトの「ITツール検索」で確認しましょう。

対象経費は、ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、機能拡張やデータ連携などのオプション、導入設定・研修・保守サポートなどの役務です(公式サイト「通常枠」)。公式サイトでは、3D GISツールとドローンで森林調査の人員を約8割減らした林業の事例や、クラウド型ホテル管理システムを導入した宿泊業の事例などが紹介されています。

申請の流れとスケジュール

中小企業・小規模事業者が行う手続きは、おおむね次の流れです(公式サイト「申請・手続きの流れ」)。

  1. 制度の理解:公式サイトと公募要領を読む
  2. GビズIDプライムの取得:発行までおおむね2週間かかります
  3. SECURITY ACTIONの宣言:アカウントIDの発行までおおむね2〜3日かかります
  4. IT導入支援事業者とITツールの選定:自社の業種・規模・経営課題に合うものを選ぶ
  5. 交付申請:IT導入支援事業者と事業計画を作り、「申請マイページ」から提出する
  6. 交付決定:審査を経て通知を受けると、補助事業を始められる

その後、ITツールの導入・支払いを行って実績を報告し、補助金が交付されます。交付後も、事業計画期間の効果報告が求められます(公募要領 3-4、3-5)。

この記事を書いている時点で公表されている交付申請のスケジュールは、次のとおりです(公式サイト「事業スケジュール」)。

  • 締切:2026年10月30日(金)17:00
  • 交付決定:2026年12月10日(木)(予定)
  • 事業実施期間・事業実績報告期限:交付決定〜2027年5月31日(月)17:00(予定)

以降の回のスケジュールは、確定し次第公表されます。締切当日の17:00を過ぎると、理由を問わず受け付けられません。直前はアクセスが集中するため、日時に余裕を持って提出しましょう。

採択に向けたポイントと注意点

過去の採択率(交付決定率)

事務局は、締切回ごとの申請数と交付決定数を公式サイトで公表しています。交付決定数を申請数で割った採択率を、当サイトで計算すると次のとおりです(公式サイト「申請数および交付決定数」)。

申請枠デジタル化・AI導入補助金2026(1〜4次締切)IT導入補助金2025(1〜8次締切)
通常枠約43.5%(7,656者中3,333者)約37.7%(23,672者中8,936者)
インボイス枠(インボイス対応類型)約48.1%(15,632者中7,514者)約46.2%(56,029者中25,900者)
セキュリティ対策推進枠約72.4%(156者中113者)約49.3%(730者中360者)

2026年の締切回ごとに見ると、次のとおりです。

締切通常枠インボイス対応類型セキュリティ対策推進枠
1次(2026年6月18日交付決定)43.9%(2,028者中891者)46.9%(4,324者中2,027者)72.7%(88者中64者)
2次(2026年7月23日交付決定)43.6%(1,879者中819者)55.3%(3,790者中2,096者)71.4%(28者中20者)
3次(2026年9月2日交付決定)42.2%(1,913者中807者)44.7%(3,982者中1,781者)72.2%(18者中13者)
4次(2026年10月7日交付決定)44.4%(1,836者中816者)45.5%(3,536者中1,610者)72.7%(22者中16者)

2026年の通常枠は、どの回もおおむね4割強で推移しています。IT導入補助金2025の通常枠は、1次締切の約51%から3次締切の約30%まで、回によって差がありました。どの枠でも、申請した事業者のおよそ半分以上は交付決定に至っていない計算になります。インボイス枠(電子取引類型)は両年とも申請が0件でした。複数者連携の枠は、2026年の1次締切で2者中1者、2次締切で4者中4者が交付決定を受けています。

この採択率は、公表された申請数と交付決定数を単純に割った参考値です。審査の基準や公募の条件は回によって変わるため、次の回も同じ割合になるとは限りません。最新の実績は公式サイトで確認してください。

審査で見られるポイント

審査では、主に次の点が見られます(公募要領 3-3)。

  • 自社の経営課題を理解し、改善に向けた具体的な問題意識を持っているか
  • 改善したい業務プロセスと、導入するITツールで期待できる効果が合っているか
  • データの連携・共有を取り入れ、継続的に生産性を上げようとしているか
  • セキュリティ対策を進めているか、労働生産性の向上率の計画値

加点項目には、クラウド製品の選定、「サイバーセキュリティお助け隊サービス」の選定、インボイス制度対応製品の選定、賃金引上げの取り組みなどがあります(公募要領 3-3、別紙1)。「なぜこのツールで、どの業務がどう良くなるのか」を、IT導入支援事業者と一緒に具体的な言葉と数字で示すことが大切です。

注意したいのは次の点です(公募要領 2-2、2-1-1)。

  • 交付決定の前に購入したITツールは対象外です。契約・支払いは交付決定を待ってから行いましょう
  • 消費税、交通費・宿泊費、補助金の申請代行費、リース・レンタル契約のツール(お助け隊サービスを除く)、中古品なども対象外です
  • 賃上げなどの要件を達成できなかった場合、補助金の全部または一部の返還を求められることがあります

よくある質問

個人事業主も申請できますか?

はい。公募要領の中小企業・小規模事業者の定義には、会社とあわせて個人事業主が含まれています。日本国内に補助事業の実施場所があることなどの要件を満たす必要があります(公募要領 2-1-1)。

好きなAIツールやパソコンだけを買うのに使えますか?

使えません。対象は事務局に登録されたITツールに限られます。PC・ハードウェアはインボイス枠でソフトウェアとあわせて申請する場合に限られ、ハードウェアだけの申請はできません(公式サイト「インボイス枠(インボイス対応類型)」)。

採択率はどれくらいですか?

公式サイトで公表されている申請数と交付決定数から計算すると、2026年の1〜4次締切では、通常枠が約43.5%、インボイス枠(インボイス対応類型)が約48.1%、セキュリティ対策推進枠が約72.4%でした。前年のIT導入補助金2025では、通常枠が約37.7%です。回によって変わるため、最新の実績は公式サイトで確認してください(上の「過去の採択率」も参照)。

まとめ

デジタル化・AI導入補助金は、旧IT導入補助金の仕組みを引き継ぎ、AIを含むITツールの導入を支援する制度です。通常枠なら最大450万円、インボイス枠では中小企業3/4・小規模事業者4/5の補助率が使えるなど、枠によって条件が大きく異なります。GビズIDプライムの取得に2週間ほどかかるので、検討を始めたら早めに準備し、IT導入支援事業者と相談しながら、自社の課題に合うツールと申請枠を選びましょう。

制度の内容や締切は公募回ごとに更新されます。申請の前には、必ず公式サイトと最新の公募要領を確認してください。

参考資料・出典