契約社員やパートを正社員にしたいと考えたとき、まず候補にあがるのが厚生労働省の「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」です。ただし、転換したあとで申請しようとしても、計画の提出や就業規則の整備が間に合っていないと受給できません。この記事では、令和8年度(2026年度)の公式パンフレット・リーフレットをもとに、正社員化コースの条件と手続きの順番を整理します(内容は2026年10月時点のものです)。
この記事で分かること
- キャリアアップ助成金の目的と、どこが管轄しているか
- 正社員化コースの対象になる事業主・労働者の条件
- 令和8年度の支給額と加算額
- 転換前に必要な準備(キャリアアップ計画・就業規則)と申請期限
- 不支給になりやすいポイントと不正受給・勧誘業者への注意
キャリアアップ助成金の概要(目的・管轄)
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者(以下「有期雇用労働者等」)の企業内でのキャリアアップを促すため、正社員化や処遇改善に取り組んだ事業主に助成する制度です。厚生労働省の制度で、計画の受理や支給審査は都道府県労働局・ハローワークが行います。財源は全額事業主負担の雇用保険二事業です。
令和8年度は、正社員化支援として「正社員化コース」「障害者正社員化コース」、処遇改善支援として「賃金規定等改定コース」「賃金規定等共通化コース」「賞与・退職金制度導入コース」「短時間労働者労働時間延長支援コース」が設けられています。この記事では利用の多い正社員化コースを中心に解説します。
対象になる事業主と主な要件
全コース共通の事業主要件
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を置いていること(複数事業所や労働者代表との兼任は不可)
- 適用事業所ごとにキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長に提出していること
- 対象労働者の労働条件・勤務状況・賃金の支払状況を明らかにする書類を整備していること
一方で、過去の労働保険料の未納がある、支給申請日の前日から過去1年間に労働関係法令違反がある、性風俗関連営業等を行っている、暴力団と関わりがある、といった事業主は受給できません。
正社員化コースの主な条件
パンフレットで示されている受給の基本条件は次の3つです。
- キャリアアップ計画:正社員に転換する日の前日までに計画を作成・提出していること
- 制度の規則化:正社員に転換する制度を就業規則などに規定していること
- 賃金の増額:転換後6か月間の賃金を、転換前6か月間より3%以上増額していること
対象労働者については、正規雇用労働者と賃金の額または計算方法が異なる雇用区分の就業規則等の適用を通算6か月以上受けていること、正社員として雇う約束で採用された人でないこと、事業主や取締役の3親等以内の親族でないこと、などが求められます。また、新規学卒者で雇入れから1年を経過していない人は対象外です。
転換先の「正規雇用労働者」は、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている必要があります。「賞与は支給しない。ただし業績により支給することがある」のような規定は対象外の例として示されています。さらに、転換日の前日から6か月前の日から1年を経過する日までの間に、事業主都合で雇用保険被保険者を解雇等していないことも条件です。
コース・メニューと支給額(令和8年度)
正社員化コースの1人当たり助成額は次のとおりです(令和8年4月8日版パンフレット・リーフレットより)。
| 対象者 | 企業規模 | 有期→正規 | 無期→正規 |
|---|---|---|---|
| 重点支援対象者 | 中小企業 | 80万円(40万円×2期) | 40万円(20万円×2期) |
| 重点支援対象者 | 大企業 | 60万円(30万円×2期) | 30万円(15万円×2期) |
| 上記以外 | 中小企業 | 40万円(1期) | 20万円(1期) |
| 上記以外 | 大企業 | 30万円(1期) | 15万円(1期) |
重点支援対象者とは、a.雇入れから3年以上の有期雇用労働者、b.雇入れから3年未満で過去5年間に正規雇用だった期間が合計1年以下かつ過去1年間に正規雇用されていない有期雇用労働者、c.派遣労働者・母子家庭の母等・人材開発支援助成金の特定の訓練修了者、のいずれかです。なお、通算5年を超えて雇用された有期雇用労働者は無期雇用労働者とみなされます。
1事業所当たり1回のみの加算として、正社員転換制度を新たに規定して転換した場合20万円(大企業15万円)、多様な正社員制度(勤務地限定・職務限定・短時間正社員)を新たに規定して転換した場合40万円(大企業30万円)、転換等に関する所定の情報を自社サイトまたは「しょくばらぼ」に公表した場合20万円(大企業15万円)があります。支給申請の上限は1年度1事業所当たり20名です。
事前に必要な準備(計画届・就業規則など)
最も重要なのは順番です。キャリアアップ計画書は「コース実施日の前日まで」に管轄労働局長へ提出する必要があり、実施するコースの取組を計画に書いていない場合も受給できません。公式資料では、実施日の1か月前など余裕を持った提出が勧められています。計画期間は3年以上5年以内で、有期雇用労働者等を含む事業所の全労働者の代表から意見を聴いて作成します。内容を変えたときは変更届が必要です。
就業規則については、転換制度の規定に加えて、正社員と非正規で賃金の額や計算方法の違いが就業規則等で確認できることが求められます。「個別の雇用契約書で定める」とだけ書かれている場合は要件を満たさない例として挙げられています。就業規則を変更した場合、届出義務のある変更を申請日までに労働基準監督署へ届け出ていないと、原則不支給とされています。
申請の流れと期限
- キャリアアップ計画の作成・提出(転換日の前日まで)
- 就業規則等の改定(転換規定がない場合など)
- 就業規則等に基づく正社員転換
- 転換後6か月分の賃金の支払い
- 支給申請(6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内)
支給申請先は事業所の所在地を管轄する都道府県労働局で、窓口持参・郵送・電子申請(雇用関係助成金ポータル)が使えます。郵送の場合は期間内に到着している必要があります。重点支援対象者の2期目は、転換後12か月分の賃金を支払ったあとに申請します。
よくある不支給の理由と注意点
- 計画の提出遅れ:転換日の前日までにキャリアアップ計画を出していない
- 就業規則の不備:転換制度が規定されていない、正社員に賞与(または退職金)と昇給がない、正社員と非正規の賃金規定の違いが確認できない
- 賃金3%増額の未達:変動する手当や就業規則に記載のない手当は比較に含められない場合がある
- 期限超過:支給申請期間(2か月)を過ぎた
- 労働関係法令違反や事業主都合の解雇等がある
- 監督署への届出漏れ、加工・転記した出勤簿や賃金台帳の提出
偽りや不正行為で受給した場合は、不支給・支給取消のうえ返還を求められ、年3%の延滞金と返還額の20%の違約金が請求されます。企業名公表や刑事告訴の対象となることもあり、5年間は雇用関係助成金を受給できません。申請を代理人に任せていても、事業主名で申請する以上、事業主も処分の対象です。
また、厚生労働省は「受給額の無料査定」などをうたうFAXや電話での助成金の勧誘に注意を呼びかけています。厚生労働省や労働局がこうした勧誘に関与することはなく、「100%受けられる」といった説明も要件を満たさなければ受給できません。
よくある質問
Q. 正社員にしたあとで申請を考えても間に合いますか?
A. 転換日の前日までにキャリアアップ計画を提出していなければ受給できません。転換を決めた段階で、先に計画書と就業規則を確認してください。
Q. 試用期間を設けて正社員にしてもよいですか?
A. 転換時に試用期間がある場合、試用期間終了日の翌日に転換が完了したものとして扱われ、賃金比較や申請期間もそれに合わせて読み替えられます。転換後に試用期間を設けないよう公式資料でも注意されています。
Q. 誰に相談すればよいですか?
A. 制度や就業規則の改定方法は管轄の労働局・ハローワークに相談できます(ただしコンサルティングや事前審査は行っていません)。就業規則の改定や書類作成を任せたい場合は、社会保険労務士に相談するのも一つの方法です。働き方改革推進支援センターでも無料相談を受け付けています。
まとめ(公式ページ)
正社員化コースは、「計画提出→就業規則の整備→転換→6か月の賃金支払い→2か月以内に申請」という順番を守れるかが受給の分かれ目です。要件や様式は年度途中でも変わることがあるため、取組の前に厚生労働省のキャリアアップ助成金ページで最新のパンフレット・支給要領・Q&A・支給申請チェックリストを確認し、不明点は管轄の労働局に問い合わせてください。